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もう一度食べたいvol.2 −おでんとひと− | HEADMEDIZINE
01. COLMUN
COLUMN

もう一度食べたいvol.2
−おでんとひと−

2019年4月27日

青いのれんをくぐれば、懐かしくて落ち着く店。

ここは福岡県某所の小料理屋。一年中おでんが食べられる店だ。一見さんお断りのこの店は誰かの紹介がないと入れない。

小柄で品のある女店主が、白い割烹着に袖を通し、ひとりで店を切盛りしている。

カウンターには旬の野菜や惣菜が並び、奥にはおでんがずらり。大根、殻付き煮卵、豆腐、こんにゃく、巾着、ちくわ、椎茸、牛すじ。

冷えた瓶ビールをグラスに注ぐ。きゅうっと飲みながら好きな具を寄そい、あつあつのおでんを食べる。体におでんが染み渡る。

わたしは大好きな友人たちとよくこの店に来ていた。店主の小夜さんにはよく女性の在り方について色々教えてもらった。

三十手前、わたしはまだまだ人間として半人前だ。少しずつ成長出来ていればいいのだけれど、なんだか今のわたしは同じ場所でずっと足踏みしているみたいだ。

何かしらの祝い事、転職や転勤、結婚、新しいはじまりのときには必ずのようにこの店に集まって祝福し、送迎しあっていた。

わたしをとりまく生活も環境もぐんと変わり、新しい生活が動き出して行った。

現在は連絡を取る手段はいくらでもあるけれど、わたしはいつものように、当たり前のようにこの店の明かりをたよりに、青いのれんをくぐって、またいつものように、当たり前のようにおでんを囲んで乾杯し、笑いあうときを心待ちにしている。

そのときまでには、何かいい報告がしたい。おでんは、こころの休まる食べ物だ。おでんのことを考えると、その先に人の笑顔が浮かんでくるからだろうか。

※フリーペーパーSEROTONiN vol.2に掲載したコラムです。

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