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もう一度食べたい vol.4 -日曜日のラーメン事情- | HEADMEDIZINE
01. COLMUN
COLUMN

もう一度食べたい vol.4 -日曜日のラーメン事情-

2019年4月27日

ロットバルトバロンのライブの後、キンコーズに年賀状を印刷しに行った。すでに1月を10日過ぎている。

音の余韻に恍惚としながら、冷えた外気を纏ってラーメン屋に入る。

硝子格子の引き戸を閉めて冷気を遮断すると、橙色の照明の光さえも暖かく感じた。湿気と熱気でむっとした混雑する店内には、席を待つ客がわたしを含め三名いる。案内されたカウンター席に腰を下ろすと、ラーメンを注文した。

ここは、日曜日の22時を過ぎた福岡・天神の某ラーメン店。周りを見渡すと、後ろのテーブル席では、おそらく結婚式帰りの粧し込んだ男女がラーメン、餃子、ビールを頼んでいる。

わたしの両隣には男性客が座り、ラーメンをすすっている。 ゴトンと重量感のある鈍い音を立て、陶器のどんぶりが目の前に置かれた。

まずは、レンゲでスープをほんの少しすくってから飲む。旨味を味わう肝心な、ファースト・コンタクトだ。無意識のうちに頬がゆるんで思わずほころんでしまう。

箸で麺をつかまえると中太麺の群れが姿を表した。ずずーっと麺をすする。わたしはスープの絡んだむちむちした麺で口の中がいっぱいになるのが好きなので、細麺より、程よい中太麺が好みだ。(固麺で)

学生の時分、ラーメン屋でアルバイトをしていたことがある。

翌日学校が休みであれば、23時に居酒屋のアルバイトを終え、そのまま自転車でラーメン屋に行き、午前3時過ぎまで働いた。

深夜0時を過ぎると、さらに客足は増えていく。深夜のラーメン屋の雰囲気は面白くて大好きだった。夜の町の匂いを引き連れて、次々に老若男女が入ってくる。

飲みの締めに来たサラリーマン、閉店後の飲食業の店員、スナックのママと従業員。だんだんと当時の陽気な酔っ払いのおじさん達とそう変わらない年齢に近づいていた。彼らが話していた内容も今なら分かるだろう。

そういえば、あの人は元気だろうか。どこかで飲んだ後に頬を紅潮させてやって来る、常連客のMちゃんを思い浮かべた。

わたしはよく、注文を受けた餃子の酢醤油を小皿に入れながら彼を横目で見ていた。Mちゃん(推定40代)は、ラーメンを待つ間に先に注文した餃子をビールで流し込むようにして食べていた。

もしかして彼は、少しづつ月曜日に侵食されてゆく「今」に抗っていたのだろうか。 いや、単に何も考えていなかったのかも知れない。

いつも笑っていたけれど、どこか翳りのあるように見受けられた表情の理由は誰にも分からない。 Mちゃんは、ラーメンが目の前に来る頃にはすでに眠たそうな顔になっていた。

わたしはラーメンを食べ終えると、一気に月曜日が色濃く縁取られたように感じ、水を飲み干すとすぐに立ち上がり店を出た。

体が温まったせいか、外はさっきよりも寒く感じない。とんこつの匂いを纏い、ぎゅっとこぶしを丸めると少したくましくなった気がした。

あと一時間も経たないうちに、日曜日が終わる。わたしは駅に向かった。

※フリーペーパーSEROTONiN vol.5(2016年3月発行)に掲載したコラムです。

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